日機装、火力発電向け液体アンモニア用ポンプの性能試験に成功

キャンドモータを使ったサブマージド構造で世界最大級132kW

 日機装は、モータ容量132kWの液体アンモニア用ポンプで、液体アンモニア(-33℃)と液温が近いLPG(-42℃)を送液するLPG性能試験に成功し、設計値通りの性能を確認した。本ポンプは、液体アンモニアを外部に漏らさないサブマージド構造(ポンプとモータを液中に沈めた構造)で、腐食性のあるアンモニアからモータを防ぐためキャンドモータを採用した。

 キャンドモータを使ったサブマージド構造のアンモニアポンプとしては、世界最大級のポンプによる試験になる。本ポンプは、燃料の一部にアンモニアを混ぜて使う火力発電所の貯蔵タンクに設置し、ボイラ設備に送液する用途に合致する。

写真(左)試験後のアンモニアポンプ、写真(右)クライオジェニックポンプ試験設備

既存のキャンドモータ技術を大型化

 日機装はすでに、液体アンモニア用キャンドモータポンプの技術を確立、商業化しており、アンモニア冷媒冷凍機向けなどに世界で数千台納入した実績がある。駆動部のモータとポンプが分離している通常のポンプは、接続部から液漏れが発生するが、モータがポンプ内に組み込まれているキャンドモータポンプは、接続部が無いため液漏れしない。また、ポンプ内部に組み込んだモータは、腐食性のある液体アンモニアに触れて劣化することを防ぐため、液体の流路から隔離した構造となっている。

 脱炭素社会の実現に向けて、液体アンモニアは新たに発電燃料や水素キャリアとしての用途が期待されている。特に、火力発電所やアンモニア基地におけるアンモニア貯蔵タンクでの利用では、従来より大規模な移送が必要とされるため、ポンプの大型化が求められている。

液体アンモニアを使う火力発電所でのポンプ設置場所
液体アンモニアを使う火力発電所でのポンプ設置場所

 そのため、日機装はLNG基地などでの大量移送に使うクライオジェニックポンプの技術を取り入れて大型化を図り、液体アンモニア用ポンプを開発した。クライオジェニックポンプで採用しているサブマージド構造により、液体アンモニアのタンク外部への漏洩を防ぐこともできる。

 今回のLPG性能試験では、キャンドモータを使ったサブマージド構造の液体アンモニアポンプとしては世界最大級のモータ容量132kWで、LPGの送液に成功。火力発電所の貯蔵タンクでの利用に合致する規模で性能試験に成功できたのは、日機装がキャンドモータポンプとクライオジェニックポンプいずれの領域でも長年、技術と知見を蓄積してきたためとしている。

LPG性能試験

 LPG性能試験は、液体アンモニア(-33℃)と温度帯が近似しているLPG(-42℃)を使って実施する性能試験。ポンプは-33℃の液体アンモニアに浸かると冷却されて、それぞれの金属部品が収縮するなどの影響を受ける。今回、より実機に近い形状・腐食対策を施したポンプで、液体アンモニアでの運転環境に近い状態で試験を行ったことで、実際の運転時に近似したデータを取得でき、液体特性に対するポンプの健全性を確認した。

今後の展開

 国内では、早ければ2027年度にも火力発電所で20%のアンモニアを混ぜた商業運転をする計画があり、日機装は2026年にも火力発電向け液体アンモニア用ポンプを市場投入する計画。また、ポンプの大型化を図り、混焼率引き上げへの対応や、アンモニア基地PCタンク用途への展開を進める。

 ※PCタンク…強化コンクリートタンクで、壁面から配管を取り付けることができない。

 今回のLPG性能試験を実施したのは、宮崎日機装(宮崎市)にあるクライオジェニックポンプ試験設備。実際のLNGやLPGを使って性能試験を行い、(極)低温の液体がポンプに与える影響などを確認することができる。火力発電所向け液体アンモニアポンプは、日本やアジアを中心に需要が拡大する見通し。

市場見通し

 燃料アンモニアは、2050年カーボンニュートラルに向けた火力発電の燃料としての期待が高まっており、経済産業省を中心に作成された『2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』(2021年)において、国内では2030年に年間300万トン、2050年に3000万トンの需要があると想定されている。

 また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業における『「燃料アンモニアサプライチェーンの構築」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画』(経済産業省、2024年)では、発電とサプライチェーンの構築による燃料アンモニアの世界市場は、2030年時点で年間約0.75兆円(発電:0.15 兆円、サプライチェーン:0.6 兆円)、2050年時点で年間約7.3兆円(発電:1.7 兆円、サプライチェーン:5.6 兆円)と算出されている。

 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の報告『INNOVATION OUTLOOK RENEWABLE AMMONIA』(2022年)によると、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃未満に抑えるためのシナリオに沿うと、世界全体のアンモニア需要は2020年代後半から船舶用燃料、水素キャリア、燃料混焼用途で伸びを見せて、2050年に約6億8800万トンに達し、これは2025年の予測需要から3倍以上伸びる計算となる。

液化CO2輸送実証船「えくすくぅる」がLPG 輸送実証試験を実施

九州液化瓦斯福島基地で LPG を積載

 日本ガスラインは NEDO※1事業※2の事業者の 1 者として主に液化 CO2 輸送実証船「えくすくぅる」を使った輸送実証試験を担っており、2024年 9 月 2 日~4 日の間、長崎県松浦市の九州液化瓦斯福島基地株式会社(基地)において LPG 輸送実証試験を実施した。

九州液化瓦斯福島基地株式会社で LPG を積載している「えくすくぅる」(写真提供:NEDO、山友汽船株式会社)
九州液化瓦斯福島基地株式会社で LPG を積載している「えくすくぅる」(写真提供:NEDO、山友汽船株式会社)

 本事業では、初期段階で液化 CO2 と LPG の輸送が共に可能な兼用船の有用性が整理・検討された結果、起用する実証船を兼用仕様とすることを決定。本事業で研究開発され、実証船に組みこまれた舶用カーゴタンクシステムも、この決定に則し兼用仕様となっている。

 今回、本事業の一環として兼用仕様の有効性を検証するため、先ずは N2 と LPG を使ったカーゴタンクシステムの雰囲気置換を行い、その後、実証船を基地にシフトし、LPG 積荷役、積状態での海上輸送、及び同基地での揚荷役、とのプロセスで実証試験を行った。本事業では、液化 CO2 の輸送実証試験が主体となるが、今後も LPG 輸送実証を複数回実施し、兼用船としてのカーゴタンク及び荷役機器の健全性や輸送時の船体バランスなどを検証する予定。

 日本ガスラインは、内航ガス船の豊富な運航ノウハウを活用し、本事業において「えくすくぅる」による船舶輸送実証試験を実施し、その中で液化 CO2 の温度、圧力、流速等の計測・データとしての蓄積・分析を行い、船舶による液化 CO2 の最適な輸送方法や荷役手法の開発に取り組む。

※1 NEDO :国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
※2 NEDO 事業:CCUS 研究開発・実証関連事業/苫小牧における CCUS 大規模実証試験/CO2 輸送に関する実証試験/CO2 船舶輸送に関する技術開発および実証試験

Daigasエナジーが脱臭プロセスのCO2削減を初期投資ゼロで提供する「D-Remove」を開始

脱臭装置をよりCO2排出の少ない方式に更新

 大阪ガスの100%子会社のDaigasエナジーは、工場を対象に脱臭プロセスで発生するCO2の削減を初期投資ゼロで提供するサービス「D-Remove(ディーリムーブ)」を2024年9月4日より開始する。

「D-Remove」サービス概要イメージ
「D-Remove」サービス概要イメージ

  Daigasエナジーは、Decarbonization(低・脱炭素化)、Decentralization(分散化)、Digitalization(デジタル化)の3つのDを軸としたサービス「D-Lineup」を中心に、エネルギー会社の強みを活かした低・脱炭素ソリューションを提供する。「D-Remove」は、大気汚染や悪臭公害の原因となる揮発性有機化合物(VOC)※1を除去し脱臭するプロセスで発生するCO2の削減を初期投資ゼロで提供するサービスで、脱臭装置をよりCO2排出の少ない方式に更新するとともに、IoTサービス等も活用しCO2マネジメント※2を実現する。

 VOCの脱臭は燃焼により臭気成分を酸化分解させる燃焼式脱臭装置が広く使われているが、「D-Remove」では燃焼時の排熱回収により高いエネルギー効率で酸化分解させる「蓄熱燃焼式」や低濃度臭気成分を濃縮し効率よく酸化分解させる「濃縮燃焼式」などの「燃焼式高効率脱臭装置」と、活性炭等により臭気成分を吸着しVOCを回収する「VOC回収装置」を用意し、顧客のニーズや設置スペースなどの条件に応じて最適な装置を提案する。

 「燃焼式高効率脱臭装置」、「VOC回収装置」により脱臭した場合のCO2排出量を一定の条件下で試算※3し、比較的構造がシンプルで幅広く利用されている「直接燃焼式脱臭装置」と比較したところ、CO2排出量は「燃焼式高効率脱臭装置」は57%減、「VOC回収装置」は80%減となった。

※1:蒸発しやすく(揮発性)、大気中で気体となる有機化合物の総称。VOCは様々な成分があり、酢酸エチルなど塗料や接着剤等に含まれる溶剤やガソリンから揮発してくるトルエンやキシレンなどが代表的な成分。
「地球温暖化対策の推進に関する法律」等の改正により、「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」の対象となる「非エネルギー起源二酸化炭素の算定対象活動」にVOCを含む溶剤の焼却が追加され、非エネルギー起源二酸化炭素を年間3,000トン以上排出している事業者は国への報告が必要となった。
※2:アスエネ株式会社が提供するCO2可視化サービス「ASUENE」と、Daigasエナジーが提供する工場IoTサービス「D-Fire」を用いて、脱臭プロセスにおけるCO2排出のマネジメントを実現。
※3 :[CO2排出量 試算条件] VOC種類:溶剤(酢酸エチル)、処理風量:300m3N/min、稼働時間:6,240h/年(260日/年×24h/日)、溶剤購入量(VOC焼却量):660t/年、CO2排出係数:ガス2.29kg/m3、電気0.42kg/kWh、溶剤2.35kg/kg

JOGMECの「先進的CCS事業に係る設計作業等」に「日本海側東北地方CCS事業構想」が採択

CO2の分離回収・輸送・貯留に係る基本設計作業、試掘調査を実施

 伊藤忠商事と日本製鉄、太平洋セメント、三菱重工、INPEX、大成建設、伊藤忠石油開発の7社が共同で提案した「日本海側東北地方CCS事業構想」が、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の公募事業「先進的CCS事業に係る設計作業等」に採択された※1

 「日本海側東北地方CCS事業構想」は、日本製鉄の九州製鉄所大分地区及び太平洋セメントグループの株式会社デイ・シイ川崎工場から分離回収したCO2を貯留適地候補に船舶を用いて輸送・貯留するもの。2023年度にはCO2の分離回収・輸送・貯留に係る事業性調査を実施した。これには、事業全体における技術的課題の整理の他、経済性や社会的受容性の獲得等に向けた検討が含まれる※2

本作業における各社役割
本作業における各社の役割

 今回採択された「先進的CCS事業に係る設計作業等」では、その次のフェーズとなるCO2の分離回収・輸送・貯留に係る基本設計(FEED:Front End Engineering Design)作業、試掘調査等を行う※3。事業性調査の結果を基に、CO2の分離回収・船舶輸送・地下貯留の各要素に対して技術面・経済性の両面から事業の基本設計作業等を進め、2030年度の操業開始に繋げていくことを目標とする。

本構想における想定スケジュール
本構想における想定スケジュール

 CCSは、日本政府が掲げる2つの目標「2050年カーボンニュートラル」と「2030年度において温室効果ガス46%削減(2013年度比)」の実現に向け、Hard-to-Abate産業※4等の脱炭素化において最大限活用すべき手段として位置付けられる。その社会実装に向けて、JOGMECは2030年度までに国内で排出された二酸化炭素(CO2)の地下貯留の実現を目指し、2023年に先進性のあるCCS事業の公募を行い、7社の共同提案が国内初の政府支援対象となる先進的CCS事業の1つとして採択された。

令和6年度「先進的CCS事業の実施に係る調査」に選定した案件の概要
令和6年度「先進的CCS事業の実施に係る調査」に選定した案件の概要

※1:令和6年6月28日の経済産業省、JOGMEC公表内容
  経済産業省公表資料:CCS事業化に向けた先進的取組~JOGMECが令和6年度「先進的CCS事業」を選定しました~
https://www.meti.go.jp/press/2024/06/20240628011/20240628011.html
  JOGMEC公表資料:CCS事業化に向けた先進的取り組み~2030年度までのCO2貯留開始に向け、設計作業等について9案件を候補として選定~
https://www.jogmec.go.jp/news/release/news_10_00191.html
※2:「令和5年度 先進的CCS事業(二酸化炭素の分離回収・輸送・貯留)の実施に係る調査」の受託について
https://www.itochu.co.jp/ja/news/press/2023/230802.html
※3:JOGMEC「先進的CCS事業に係る設計作業等」に関する業務委託先の公募の概要
https://www.jogmec.go.jp/news/bid/bid_10_00836.html
※4:素材産業を始めとする電化及び水素化等だけでは脱炭素化の達成が困難と想定される産業を指す。

JOGMECの「先進的CCS事業に係る設計作業等」 委託事業公募に首都圏CCS事業が正式採択

日本製鉄東日本製鉄所君津地区と京葉臨海工業地帯を排出源とするCO2を回収、パイプライン輸送で千葉県外房沖の海域に貯留

 INPEXと日本製鉄、関東天然瓦斯開発の3社が、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(以下「JOGMEC」)の公募事業「先進的CCS事業の実施に係る設計作業等」業務委託事業※1に、共同で応募した「首都圏CCS事業」(以下「本事業」)が正式採択され、JOGMECと3社間で委託契約を締結した。

 JOGMECが2023年に実施した「先進的CCS事業の実施に係る調査」委託事業※2として、本事業に係るCO2の分離回収・輸送・貯留に係る事業性調査を3社は実施し※3、今年度より、事業性調査の後続フェーズとしてCCSバリューチェーン全体の設計作業や貯留ポテンシャル評価作業を実施する。

  *Carbon dioxide Capture and Storage: 二酸化炭素(以下「CO2」)の分離回収・輸送・貯留

 各社は、日本製鉄東日本製鉄所君津地区及び京葉臨海工業地帯の複数産業を排出源とするCO2を回収、パイプラインで輸送の上、千葉県外房沖の海域に貯留するCCS事業について、それぞれの技術力と知見を活かし、CCS事業化に向けCO2分離回収・輸送・貯留のCCSバリューチェーンの各パートにおける設計を行う。

※1:CCS事業の普及と拡大に向けた支援を目的とし、事業性調査に加えて、分離回収・輸送・貯留に係る詳細設計を行う「CCS バリューチェーンにおける設計作業」及び試掘調査などを行う「CO2貯留予定地の貯留ポテンシャル評価作業」を実施するもの。
https://www.jogmec.go.jp/news/bid/bid_10_00836.html

※2:令和5年度「先進的CCS事業の実施に係る調査」の委託先の公募
https://www.jogmec.go.jp/news/bid/bid_10_00529.html

※3:JOGMECによる令和5年度「先進的CCS事業の実施に係る調査」委託事業公募における首都圏CCS事業の正式採択について
https://www.inpex.co.jp/news/2023/20230802_b.html

下水道施設発生の再生水と消化ガス活用でe-メタン製造実証

東京ガス横浜テクノステーションのメタネーション実証設備でCCU

 東京ガスは、2022年1月に横浜市と締結した協定*1に基づき、横浜市北部下水道センター(以下「北部下水道センター」)の再生水(下水処理した水をろ過した水)と消化ガス(下水汚泥を処理する工程で発生するバイオガスで、CH4とCO2の混合ガス)を東京ガス横浜テクノステーションにあるメタネーション実証設備に輸送し、水素およびe-methane(以下「e-メタン」)製造の原料として利用する共同実証を開始した。

 東京ガスでは、2023年7月より横浜市資源循環局鶴見工場(以下「鶴見工場」)の排ガスから分離・回収したCO2をメタネーションの原料として活用するCCU共同実証*2を推進してきた。今回、地域連携をさらに拡大し、北部下水道センターで発生する再生水や消化ガスもメタネーション実証設備に輸送し、それぞれ、水電解による水素製造用の原料水、およびe-メタン製造用の原料CO2として活用することで、将来のカーボンニュートラル化へ向け、より環境を重視した地域連携モデルとしての可能性・有効性を検証する。

北部下水道センターから受入れた再生水(左写真)と消化ガス
北部下水道センターから受入れた再生水(左写真)と消化ガス

 

*1:横浜市と東京ガスがメタネーションの実証試験に向けた連携協定を締結(2022年1月18日発表)
*2:ごみ焼却工場の排ガスからのCO2回収とメタネーションへの利用実証の開始(2023年7月28日発表)
*3:東京ガスグループにおけるオフサイトコーポレートPPA小売供給事業の実施について(2023年5月30日発表)

2028年以降の国際間大規模液化CO2海上輸送の実現で、液化CO2輸送船の標準化に向けた共同検討を開始

アンモニア燃料等脱炭素技術を活用した新燃料船についての共同検討も視野

 川崎汽船、商船三井、日本郵船の3社は、三菱重工グループの三菱造船、今治造船、ジャパン マリンユナイテッド、ならびに今治造船とJMUの共同営業設計会社である日本シップヤードと、液化CO2輸送船(LCO2輸送船)の標準仕様・標準船型確立に向けた共同検討に着手した。

 国内で回収したCO2を貯留地に向け海上輸送する各種CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)プロジェクトにおいては、今後、LCO2輸送船の需要拡大が見込まれることから、本邦内で安定的にLCO2輸送船を建造、供給し、CCSバリューチェーンの実現と経済性向上を図る必要がある。このため、上記7社はLCO2輸送船の標準仕様・標準船型の確立や、建造サプライチェーンの確立が重要な課題であるとの共通認識の下、共同検討を行うことになったもの。

 本検討は、LCO2輸送船を対象に進め、国内の他造船所での建造も可能にすることを目指す。また更なる展開として、LCO2輸送船のみならず実用化が期待される脱炭素技術(アンモニア燃料等)を活用した新燃料船についても、同じ課題認識を共有する他造船所を含め、業界関係者と広く連携する枠組みの構築など、業界一丸となって脱炭素社会の更なる進展に貢献するとしている。

世界初の商用利用を前提としたアンモニア燃料タグボート「魁」が完成

日本郵船グループの新日本海洋社が東京湾で曳船業務に従事

 日本郵船と株式会社IHI原動機(以下「IHI原動機」)の2社が、一般財団法人日本海事協会の協力を得て研究開発を行っていたアンモニア燃料タグボート「魁」(さきがけ、以下「本船」)が2024年8月23日に竣工した。世界初の商用利用を前提としたアンモニア燃料船(2024年8月23日現在、日本郵船調べ)で、今後は日本郵船グループの株式会社新日本海洋社によって東京湾での曳船業務に従事しながら3ヵ月間の実証航海を実施する。

 本船は2021年10月に国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」)のグリーンイノベーション基金(以下「GI基金」)事業の公募採択を受け、「アンモニア燃料国産エンジン搭載船舶の開発」の一環として開発された。前身であるLNG燃料タグボート「魁」は2015年8月、当時日本で初めてのLNG燃料船として竣工した。

 約8年に渡り東京湾で曳船業務に従事した後、2023年10月にLNG燃料船からアンモニア燃料船への改造工事のため日本郵船グループの京浜ドック株式会社追浜工場に入渠。改造工事では主機関などをアンモニア燃料仕様のものに換装し、燃料アンモニアを使用した海上航行試験を行い、2024年8月23日竣工を迎えた。「LNG燃料船であった時と同様にアンモニア燃料船の先駆けとして活躍してほしい」という願いから、本船は「魁」の名前を引継いでいる。

 日本郵船は、同じくNEDOのGI基金事業の公募採択を受けた「アンモニア燃料国産エンジン搭載船舶の開発」の一環で、株式会社ジャパンエンジンコーポレーション、日本シップヤード株式会社、IHI原動機、一般財団法人日本海事協会と、アンモニア燃料アンモニア輸送船の研究開発を行っており、2026年11月の竣工を目指す。

魁の概要

  • 全長:37.20m
  • 全幅:10.20m
  • 深さ:4.40m
  • 総トン数:278トン
  • 建造年:2015年
  • 船主:日本郵船

東芝エネルギーシステムズがインドネシア電力公社グループとCO₂分離回収技術の火力発電所への適用で覚書を締結

火力発電所向けCCS設備の導入に向けた検討

PLN Nusantara PowerのRachmanoe Indarto(ラフマヌー・インダルト氏)Director of Coal Power Plant Operations(中央着席 右側)、東芝エネルギーシステムズ パワーシステム事業部 副事業部長 松下丈彦氏(中央着席 左側)

 東芝エネルギーシステムズは、インドネシア電力公社のグループ会社(PLN-Nusantara Power、以下、PLN)と、東芝エネルギーシステムズのCO2分離回収(CCS注1)技術をPLNが所有するインドネシアの火力発電所へ適用するための覚書を締結した。本覚書に基づき、両社は中長期的に火力発電所向けの小型および大型CCS設備の導入に向けた検討を進める。

 インドネシアは電源構成における火力発電への依存度が80%以上注2(2022年)と高く、依存度の低減を含めた温暖化対策が喫緊の課題となっている。世界的に環境意識が高まる中、インドネシア政府は2060年までにカーボンニュートラルを実現することを表明しており、対応策の一つとして、石炭やLNGといった化石燃料を使用する火力発電所への低炭素化技術、特にCCS技術の適用に対するニーズが高まっている。

 今般の覚書に基づき、東芝エネルギーシステムズはPLNと、タービンや発電機などの主要機器を納入したインドネシア最大の発電所群であるPLNのパイトン石炭火力発電所1,2号機などの直接保有・運転する発電設備におけるCCS設備の導入に向けた検討を進める。

 CCS設備の運転にはエネルギー消費を伴うが、発電設備の納入とメンテナンスサービスおよび実証試験などで長年培ってきたCCS設備の知見を生かし、CCS設備導入後のエネルギー消費の影響を最小限に抑える。

 また東芝エネルギーシステムズはPLNより、同社が保有するパイトン石炭火力発電所および必要に応じ他の発電所の運転実績データの提供を受ける予定。発電効率を最適化した上で環境に配慮したCCSの分離回収技術の検討やコストの検証を実施しつつ、PLNの技術者と共にCCS設備の導入・運転に関する実現可能性を調査し、それに伴う人材育成支援などを行う。

 東芝エネルギーシステムズは、1981年以降、インドネシアの火力および地熱発電所向けに蒸気タービン32台(合計8,263MW)、水力発電所向けに水車36台(合計2,332MW)を納入。このうち、PLNが運営している4つの火力発電所向けに、蒸気タービン9台(合計1,845MW)を納入している。

注1:CCS(Carbon Capture and Storage):プラントから排出されるCO2を分離、回収する技術
注2:インドネシア政府統計に基づく東芝エネルギーシステムズ推計。URLの9-10ページの表3を参照。
https://gatrik.esdm.go.id/assets/uploads/download_index/files/72f25-web-publish-statistik-2022.pdf(45.38MB)

東芝エネルギーシステムズ製CO2分離回収設備の一例

環境省「環境配慮型CCS実証事業」 CO₂分離回収実証設備

インドネシア・アチェのグリーンアンモニア事業“GAIA”でTOYO、PIHC、伊藤忠が共同開発契約を締結

アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)第2回閣僚会合でJDA調印

 東洋エンジニアリング株式会社(細井 栄治 取締役社長、以下 TOYO)は、インドネシア共和国において、同国肥料公社Pupuk Indonesia Holding Company(President Director Rahmad Pribadi、以下 PIHC社)および伊藤忠商事株式会社(石井 敬太 代表取締役社長COO、以下 伊藤忠商事)とPIHC社傘下のPupuk Iskandar Muda(以下 PIM社)​保有の既設アンモニアプラントに水電解装置を併設し、再生可能エネルギー由来のグリーン水素を供給してグリーンアンモニアを製造する事業の共同開発契約書(Joint Development Agreement、以下JDA)を締結した。

アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)にて行われた調印式の様子 
左から、 TOYO 細井栄治 取締役社長、伊藤忠商事 木村卓 機械カンパニープラント・船舶・航空機部門都市環境・電力インフラ部長、齋藤健 経済産業大臣、Rosan Perkasa Roeslani インドネシア投資大臣、PIHC社 Rahmad Pribadi President Director

 これに伴い、2024年8月21日にジャカルタにて行われたアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)第2回閣僚会合で当該JDA調印を公表している。

 本プロジェクトでは、TOYOが2000年代に設計・建設し、PIM社がアチェ州の経済特区にて保有・運転する既存プラントの製造能力の一部を活かし、グリーンアンモニアを製造する。このグリーンアンモニアは、伊藤忠商事により船舶燃料として調達されることで、一連のバリューチェーンを構築することを目指す。

 将来的には、PIHC社傘下の他既設プラントにも同様の仕組みを横展開することを視野に入れる。船舶燃料用途を目的とし、既存アンモニアプラントを活用した商業規模のグリーンアンモニア製造は世界初の取り組み。本プロジェクトは、経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業補助金」の対象事業として採択された。