キャンドモータを使ったサブマージド構造で世界最大級132kW
日機装は、モータ容量132kWの液体アンモニア用ポンプで、液体アンモニア(-33℃)と液温が近いLPG(-42℃)を送液するLPG性能試験に成功し、設計値通りの性能を確認した。本ポンプは、液体アンモニアを外部に漏らさないサブマージド構造(ポンプとモータを液中に沈めた構造)で、腐食性のあるアンモニアからモータを防ぐためキャンドモータを採用した。
キャンドモータを使ったサブマージド構造のアンモニアポンプとしては、世界最大級のポンプによる試験になる。本ポンプは、燃料の一部にアンモニアを混ぜて使う火力発電所の貯蔵タンクに設置し、ボイラ設備に送液する用途に合致する。
既存のキャンドモータ技術を大型化
日機装はすでに、液体アンモニア用キャンドモータポンプの技術を確立、商業化しており、アンモニア冷媒冷凍機向けなどに世界で数千台納入した実績がある。駆動部のモータとポンプが分離している通常のポンプは、接続部から液漏れが発生するが、モータがポンプ内に組み込まれているキャンドモータポンプは、接続部が無いため液漏れしない。また、ポンプ内部に組み込んだモータは、腐食性のある液体アンモニアに触れて劣化することを防ぐため、液体の流路から隔離した構造となっている。
脱炭素社会の実現に向けて、液体アンモニアは新たに発電燃料や水素キャリアとしての用途が期待されている。特に、火力発電所やアンモニア基地におけるアンモニア貯蔵タンクでの利用では、従来より大規模な移送が必要とされるため、ポンプの大型化が求められている。
そのため、日機装はLNG基地などでの大量移送に使うクライオジェニックポンプの技術を取り入れて大型化を図り、液体アンモニア用ポンプを開発した。クライオジェニックポンプで採用しているサブマージド構造により、液体アンモニアのタンク外部への漏洩を防ぐこともできる。
今回のLPG性能試験では、キャンドモータを使ったサブマージド構造の液体アンモニアポンプとしては世界最大級のモータ容量132kWで、LPGの送液に成功。火力発電所の貯蔵タンクでの利用に合致する規模で性能試験に成功できたのは、日機装がキャンドモータポンプとクライオジェニックポンプいずれの領域でも長年、技術と知見を蓄積してきたためとしている。
LPG性能試験
LPG性能試験は、液体アンモニア(-33℃)と温度帯が近似しているLPG(-42℃)を使って実施する性能試験。ポンプは-33℃の液体アンモニアに浸かると冷却されて、それぞれの金属部品が収縮するなどの影響を受ける。今回、より実機に近い形状・腐食対策を施したポンプで、液体アンモニアでの運転環境に近い状態で試験を行ったことで、実際の運転時に近似したデータを取得でき、液体特性に対するポンプの健全性を確認した。
今後の展開
国内では、早ければ2027年度にも火力発電所で20%のアンモニアを混ぜた商業運転をする計画があり、日機装は2026年にも火力発電向け液体アンモニア用ポンプを市場投入する計画。また、ポンプの大型化を図り、混焼率引き上げへの対応や、アンモニア基地PCタンク※用途への展開を進める。
※PCタンク…強化コンクリートタンクで、壁面から配管を取り付けることができない。
今回のLPG性能試験を実施したのは、宮崎日機装(宮崎市)にあるクライオジェニックポンプ試験設備。実際のLNGやLPGを使って性能試験を行い、(極)低温の液体がポンプに与える影響などを確認することができる。火力発電所向け液体アンモニアポンプは、日本やアジアを中心に需要が拡大する見通し。
市場見通し
燃料アンモニアは、2050年カーボンニュートラルに向けた火力発電の燃料としての期待が高まっており、経済産業省を中心に作成された『2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』(2021年)において、国内では2030年に年間300万トン、2050年に3000万トンの需要があると想定されている。
また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業における『「燃料アンモニアサプライチェーンの構築」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画』(経済産業省、2024年)では、発電とサプライチェーンの構築による燃料アンモニアの世界市場は、2030年時点で年間約0.75兆円(発電:0.15 兆円、サプライチェーン:0.6 兆円)、2050年時点で年間約7.3兆円(発電:1.7 兆円、サプライチェーン:5.6 兆円)と算出されている。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の報告『INNOVATION OUTLOOK RENEWABLE AMMONIA』(2022年)によると、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃未満に抑えるためのシナリオに沿うと、世界全体のアンモニア需要は2020年代後半から船舶用燃料、水素キャリア、燃料混焼用途で伸びを見せて、2050年に約6億8800万トンに達し、これは2025年の予測需要から3倍以上伸びる計算となる。